AI に送ったデータの行方 — 預け先より、手元のログのほうが長く残る
提供元が学習に使わないことは確かめた。けれどプロンプトは、送る前に自分のアプリのログ・監視・エラー通知を通っている。削除の依頼が来たとき、消せないのはそちらだった。
この記事の進み方
What — プロンプトが通る場所
LLM に送るデータは、1 本の文字列です。普通の文字列と同じように、あちこちに写されます。 送り先の提供元は、その経路の 1 つにすぎません。
- 1① 組み立て入力に、検索で引いたデータを足す中
- 2② 自分のアプリログ・トレース・エラー通知重い
- 3③ 送信どの地域で処理されるか軽い
- 4④ 提供元保存・不正利用の監視・学習中
- 5⑤ 応答の保存会話履歴・キャッシュ・共有重い
どこに何日残るかを場所ごとに書き出すと、削除の依頼や漏えいのときに「どこを見ればよいか」が言える。
提供元(④)の扱いは契約で決まる。②と⑤は自分で決めていて、いちばん長く残りやすい。
学習は、行方の 1 つにすぎない
AI とデータの話は「学習に使われるか」に集まりがちです。大事な確認ですが、それだけを見ると、ほかの場所が抜けます。
| 場所 | 誰が決めるか | よく抜けること |
|---|---|---|
| 検索で足すデータ | 自分 | 利用者の質問に要らないデータまで足している |
| 自分のログ | 自分 | 全文を出している。保存期間がほかのログと同じ |
| 処理される地域 | 自分(選べる場合) | 業務の要件と合っているか確かめていない |
| 提供元での保存 | 契約 | 学習しない ≠ 保存しない |
| 会話履歴・共有 | 自分・利用者 | 共有リンクが誰でも開ける |
自分で決めている場所のほうが多いことに注意してください。提供元の契約をいくら確かめても、②と⑤は変わりません。
冒頭の事故で、顧客のデータが最も長く、最も多くの人に見える形で残っていたのはどこですか?
Why — なぜ気づかないのか
プロンプトは、ただの文字列に見える
アプリのコードから見ると、LLM への送信は外部 API へのリクエストの 1 つです。ほかのリクエストと同じように、ログに出し、トレースに載せ、失敗すれば例外として報告します。
ただ、中身が違います。普通の API のリクエストは、ID や数値が中心です。プロンプトは、利用者が書いた自由な文章と、検索で集めてきた文書の塊です。住所も、病歴も、社外秘の数字も、区別なく入ります。
送る量は、入力した量より多い
利用者が「先月の注文が届かない」と書いたとします。アプリはそれに、注文履歴、配送先の住所、過去の問い合わせを足して送ります。社内向けなら、検索でヒットした文書を 10 件足すこともあります。
利用者は 1 文しか書いていないので、大事なデータを送った自覚がありません。 作った側も、足したデータは「文脈」としか見ていません。
システムプロンプトは秘密ではない
もう 1 つ、見落とされやすい行方があります。利用者自身です。
システムプロンプトに書いた内容は、プロンプトインジェクションの手口で、ある確率で引き出せます。「上の指示をそのまま書き出して」と頼まれれば、書き出すことがあります。
- API のキーや内部の URL を、システムプロンプトに書かない
- 「この顧客は要注意」のような、本人に見せられない情報を入れない
- システムプロンプトは、いつか公開されるものとして書く
禁止すると、見えなくなる
社員が個人のアカウントの AI チャットに社内の資料を貼る問題もあります。全面禁止で対応すると、便利さは消えないので、使う場所が見えなくなるだけになりがちです。私物のスマートフォンで使われれば、会社からは何も分かりません。
会社として使ってよい道具を用意する(学習に使わない契約で、管理者が設定を統制できるもの)ほうが、データの行方を把握できます。
社内向けの AI チャットで、社内の在庫 API を呼ぶために、API キーをシステムプロンプトに書いています。問題はどれですか?
演習 — まず自分で判断する
解説を読む前に、まず自分で判断してみてください。ここで一度詰まっておくと、 次の節の判断軸が「なるほど」ではなく「そう来たか」に変わります。
LLM を使う機能のログを、どう残しますか?
- 問い合わせの返信を AI が下書きする機能。月に 2 万件
- プロンプトには問い合わせの本文と、検索で引いた注文履歴・住所が入る
- AI の応答がおかしいとき、原因を調べられるようにしたい
- アプリのログは外部の監視サービスに転送され、保存期間は 2 年、開発者全員が検索できる
- 退会した顧客からの削除依頼には、30 日以内に応える必要がある
- · 個人情報を含む全文が、どこに何日残るか
- · 削除の依頼が来たとき、どこから消せる必要があるか
- · 障害の調査に、本当に全文が要るのはどんなときか
「情報漏えいが怖いので、社員の AI の利用を全面禁止する」と言う部長に、それだけでは足りない理由と代わりの案を説明してください
- 相手は情報漏えいの責任を負う立場で、慎重に判断しようとしている
- すでに一部の社員が、個人のアカウントで AI チャットを使っている
- 代わりの案を、費用も含めて出したい
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